「ビルマの竪琴」(竹山道雄)

やまれぬ思いが結晶化した超一級の反戦小説

「ビルマの竪琴」
(竹山道雄)新潮文庫

ビルマ戦線で英軍捕虜となった
日本軍兵士たち。五日後の
帰国を告げられた彼等には、
解放される喜びとともに
ただ一つの気がかりがあった。
それはこの収容所に
送られる前に、他の部隊の
降伏を説得しにいった
水島上等兵の行方…。

さて本書は、
子ども向けの「名作」という
評価が先に立つため、
批判的な見方を
されることの多い作品です。
「戦場の甘っちょろい友情物語か?」
「戦争はもっと悲惨なものだ」等々。

おそらくそうした批判をされる方々は、
大岡昇平の「俘虜記」等の作品と
比較されているのではないかと
思われます。
本作品は「俘虜記」のように、
作者の体験した現実を写実的に再現し、
戦争の異常さを
訴えようとしたものではありません。

すべては水島の手紙に
凝縮されています。

玉砕を覚悟した部隊への
説得に失敗した彼は、
戦争に突き動かされている
日本人の本質を見抜きます。
「ここにたけりたっている人たちは
 何か妙なものに動かされています。
 一人一人はあるいは別なことを
 考えているのかもしれません。
 しかし、全体となると、
 それは消えてしまって
 どこにも出てきません。
 人々はお互いにあおりたてられた
 虚勢といったようなものから、
 後にはひけなくなっているのです。」

そして彼は、僧としての
修行をする中で気付くのです。
「われわれが重んじたのは、
 ただその人が
 何ができるかという能力ばかりで、
 その人がどういう人であるか、
 また、世界に対して人生に対して、
 どこまでふかい態度をとって
 生きているか、
 ということではありませんでした。」

そうです。
本作品は、戦場に行くことのなかった
一高のドイツ語教授が、
戦時中の愚かな日本人の狂騒と、
戦後の掌を返したようにすべてを否定し
何事も顧みることのなかった
日本人の軽薄さを、
静かに告発した
超一級の反戦小説なのだと考えます。
小説としての作品が
この一冊だったことを考え合わせると、
本作品は、
作者の止むにやまれぬ思いが
結晶化したものであるはずです。

書かれた当時は
戦後間もないGHQ統制時代。
「童話」という衣装を着せなければ
世に出すことのできない内容です。
いや、次世代への願いを
童話という形に託したのでしょうか。
それを受け取るべき私たちの世代も、
それなりの歳になってしまいました。
次の世代へ、この作品を
確実に繋げていきたいものです。

(2019.8.15)

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